森のようちえん 森のたんけんたい

森のたんけんたいは、愛知県春日井市の森の中で活動しています。子どもの主体性を尊重し、自分や相手の気持ちを大切にしながら保育を行っています。自然の中での活動が主ですが、音楽、造形、劇などの芸術活動や表現活動なども行っています。

やさしさを返していく

いつものお散歩の道で、何人かの子たちとゆっくり最後尾を歩いていた。ちょっとした階段のところで座って、年少のTくんの持っている恐竜図鑑を見ている何人かの子たちと合流する。

図鑑を見終わり、あっという間に高いところに登っていく年少のHNくん。それを見て、最近HNくんと仲の良い2歳児のMくんも登りたがるが、難しくてなかなか登れない。

HNくん「ゆきほちゃん、Mが登れないんだって」Mくん「も~、なんで登れないの~!?」わたし「う~ん、どうやったら登れるかな~。まず枝預かっておくね。」がんばれMくん!

お散歩中、お気に入りの石や枝などを持っていることも多い子どもたち。その子が1日中持っているので、自然に覚えて誰のものか分かることがほとんどだけど(忘れても他の子が覚えている)混ざらないように分けて持っておく。

しばらくして、HNくんが手を差し出してどうにかMくんも登れたようだ。とってもうれしそう。HNくんも「Mが登れたんだよ!」ってうれしそうに教えてくれた。

続いて、少し移動して自分で登れそうな場所を探して登る年少のHJくん、KIくん、2歳児のKZくん、Aくん。

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年少のTくんも枝と図鑑を持ちながら登ろうとしているが「登れないよ~」と困っている。「T、枝と図鑑持っておくよ」と言うと「あっ、ありがとう!」とまた一生懸命登ろうとする。

みかねたHJくんとMくんが、枝を差し出して助ける。さっき助けてもらったMくんも、今度は助けてあげる番になったみたい。あれ、さっき登っていたAくんも、降りてTくんを押してくれている。そうして、Tくんも無事に登れた。

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登れてうれしそうな表情で「ゆきほちゃん図鑑かして~」とTくん。「いいよ~、そこで見るんだね。おもしろいね。」とわたし。いろんなところでみんなで見る図鑑は楽しいね。登ったみんなでわいわいしながら見ていた。

あ、2歳児のAくんがひとりで歩いていっちゃった。歩くスピードも早くてあっという間に見えなくなった。「みんな~、Aがひとりで行っちゃった!ゆきほちゃん、Aがイノシシに食べられると困るから追いかけてくるよ!」と追いかけると「おれも!」「ぼくも!」とみんな急いで降りて、走って追いかける。

「どこだどこだ?」「あれもしかして食べられちゃった?」と言いながら進むとAくんを見つけた。「Aいたよ!」「よかった~、食べられてなかったね」とひと安心。

そしてちょっとひと遊び、ひと休みしていると・・。

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あらあら、今度はMくんがスタスタ進んで見えなくなった。今度は追いかけるんじゃなくて、追いかけられたくなったのかなあ。「Mがイノシシに食べられちゃう!追いかけよう!」とみんな。

枝をシートベルトのようにして入るイスがお気に入りのTくんは「あれ抜けなくなっちゃった!」と頑張って抜け出そうとするけど、抜けない。「大丈夫?」「引っ張るよ!」とHNくんとHJくん。
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無事に抜け出すと、HNくんの「みんなで競争しながら見つけようよ!よーいドン!」という声でみんなで走っていく。

Mくんは草や木の陰に静かに隠れていたみたいだ。「M見つけた~!」見つけられたMくんは満足そうな表情。追いかけるのもいいけど、追いかけられるのも楽しいんだよね。

そんなことをしていると、あっという間にみんなのいる広場に到着した。「あれ?今日着くの早いね」「もう着いちゃったね~」と、すぐにみんなの遊びに混ざっていった。

 2歳児のKくん、Mくん、Aくんでお店やさんごっこは定番。しばらくすると、お店やさんごっこから、枝に葉っぱを刺していくのに夢中になったMくん。

お弁当の時間になったけど、まだまだやりたいとのこと。「終わるまでやっておいで~、終わったら一緒にお弁当食べよっか」と声をかける。

大きい子たちと崖滑りをしている2歳児のYくんにも声をかけるが、まだ遊びたそうなので「大きい子たちと一緒に帰ってきたらお弁当食べよう」と声をかけた。2歳児のKくんとAくんでお弁当を食べ始める。

たくさん滑ってきてやりきった表情のYくんと、枝に葉っぱを全部刺して、満足そうな表情のMくんが戻ってきた。

「おかえり~!楽しかったね!みんなで食べよう~」と4人で食べ始める。

Mくんの枝に刺した葉っぱ、途中まで数えたら、80~100枚はある。すごい集中力だね。

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さてさて、お弁当のあともたくさん遊んで、ベルが鳴り出発の時間。

みんながあっという間に進んだあと、2歳児のAくんが「もう歩けない~!」「抱っこして~!」と座り込んだ。

Aくんと相談したり、励ましたり、リュックの中身を軽くしたり、遊びにもっていこうとするが、Aくんの気持ちは変わらない。

そうしたら、そのやり取りを見ていた年少のHJくんが「歩ける魔法」をかけてくれた!

その魔法は、言葉にするのが難しい呪文で、大きな声で唱えるのだ・・。わたしもびっくり、つい魔法にかかってしまい「あれ!歩けるぞ!」とスタスタ歩き出すわたし。

Aくんは「歩けな~い」と座ったままだ。HJくんと「Aには魔法が効かないみたいだねえ、ふしぎだねえ。」と一緒に首をかしげる

ちょっとだけAくんが動くのを見て「あっ、ちょっと歩けた」というと、それが面白かったのか、自分でもちょっと動いては「あっ、ちょっと歩けた!」と笑うAくん。何回か繰り返す。う~ん、ちょっと心がほぐれてきたかな?

すると、HJくんが、奥から太くて長~~~い枝を持ってきて「これで行こう!」とAくんに声をかける。Aくんも「うわぁ~!」とうれしそうに枝に掴まり、電車に変身。2歳児のMくんも一緒に枝に掴まり歩き始める。

途中、Aくんが一人で走って遠くまで行く。すっかり元気になったようだ。「つぎは~、A駅~、A駅~」とHJくん。Aくんのいるところに停まり、またAくんを乗せて進んでいく。

Mくんは大事な枝を持ちながら歩くが、持ちにくかったようで「この枝持てない~」と少しぐずると、すかさずHJくんが「HJが持ってあげるよ!」と枝を預かる。自分の枝も持っているので、手にはもういっぱいだけど、HJくんの持ってあげたい気持ちが伝わってくる。

いつもHJくんは、年少さんのなかでも大きい子たちや、年中、年長さんにやさしくしてもらうことが多い。困っているときに助けてもらったり、荷物を持ってもらったり、話を聞いてもらったり、励ましてもらったり、なぐさめてもらったり・・。

でも、この日は自分がお兄さんの立場になってAくんに手を差し伸べてくれたのだ。Aくんの気持ちに寄り添って、でもいきすぎない距離で、楽しく、心がほぐれるように。

いろんなひと(お母さんだけではない大人や、仲間たち)にやさしくしてもらうと、今度は自分がやさしさを他のひとに返していくようになる。それはとても自然に、感覚的に、やさしさを渡していくようになる。

「やさしさ」を強要されるのはしんどい。自分の気持ちが納得してなくても、まず相手の気持ちを大切にしなきゃならない。自分の気持ちはなかったことにするか、表面上でやさしくして、裏(大人の見ていない場所)で発散しなきゃならない。

自分の気持ちを大切にされたうえで、自分から湧き出てくる気持ちとして、相手の気持ちも大切にしていけるような、そんな感覚を、森のこどもたちはすでに持ち合わせているんだよな~。HJくんを見ていて、あらためてそんな風に感じた。